理系研究者のあんてな

研究、読書、雑記帳

量子トンネル現象の秘密を解明 ― Nature Physics

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超高速分光の手法を用いて物理現象を研究する国際チームがこのたび、量子トンネル過程は瞬間的な(instantaneous)ものであることを明らかにしました。
 
この成果について、国際チームのメンバーであるオーストラリア国立大学のAnatoli Kheifets氏は「これほどまでに時間間隔の短い領域の物理現象は、これまでに研究されていませんでした。それは全く新しい世界なのです。」と話しています。
 
非常に小さなスケールの現象を記述する量子力学によると、電子に代表される微小粒子は波のような性質を持ち、その正確な位置は理論的に決定できません。
これは、それらの粒子が古典的には(直感的には)明らかに侵入できない領域に存在しうることを意味します。これが量子トンネル効果です。
 
量子トンネル効果は太陽における核融合走査型トンネル顕微鏡コンピューターに用いられるフラッシュメモリなど、多くの現象において重要な役割を果たしています。
一方で、このような粒子の浸み出しは電子デバイスの小型化を制限する要因でもあります。
 
ここ15年程の間に発達したアト秒(10^-18秒)スケールの超高速実験領域の研究グループに所属するKheifets氏らの研究が行われるまで、光子の入射によって原子がイオン化する際の時間遅れなど、多くのアト秒現象は適切に理解されていませんでした。
 
同研究グループのIgor Ivanov氏の話では、「この理論ではトンネル過程における電子の速度が光速を超えうるという非常に興味深いパラドクスが現れます。しかし、これは特殊相対性理論に反するものではありません。なぜなら、トンネルする電子の速度もまた虚数になるからです。」とのこと。
 
スーパーコンピューター「雷神」を用いた彼らの計算によって、光イオン化現象における時間遅れは量子トンネル効果によるものではなく、原子核のつくる電場によって電子が引き留められることが原因であるとわかりました。
 
この結果は今後のアト秒領域実験の正確なデータ較正につながるであろうとKheifets氏は話しています。
 
 
P. S. 本研究で用いられたスーパーコンピューター「雷神」富士通が開発し、オーストラリア国立大学に納めたものだそうです。ちなみに、あの有名なスーパーコンピューター「京」を開発したのも富士通です。
 
 
 
Reference:
1. L. Torlina et al., Nature Physics (2015).  http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys3340.html
 

自分の力で空を飛べる? サイエンスZERO

昼に食事をとりながらサイエンスZEROを観ました。

5/24に放送された内容の再放送で、カナダ/トロントで開発された人力ヘリコプターの紹介が面白かったのでまとめてみます。

 

シコルスキー人力ヘリコプター賞

アメリカヘリコプター協会によって1980年に設立された賞。

授賞条件は

  • 1分間浮上し続ける。
  • 少なくとも一度は機体最下部が地上3メートルに到達。
  • その間、操縦席が10メートル四方の領域から出ない。

というもの。

賞金は25万ドルで、2013年にカナダ/トロントのチームによって達成されるまで受賞者はいなかったそうです。

 

成功のカギは「機体の大きさ」 

条件達成のための基本的なアイデアは簡単で、機体を大きくすることで地面との距離を相対的に小さくしようというものです。

しかし、大きさと軽量化、操作性を同時に実現しなければならないので、技術的にはとてもチャレンジングなものであったと思います。

下の図は使用された機体「ATLAS」の大きさを旅客機、人と比較したもの。

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Atlas: the Sikorsky prize-winning design — Aerovelo

 

この大きさで機体の全重量が55 kgというから驚きですね。

 

挑戦の歴史

4つの回転翼をもつ特徴的な構造は、日本人研究者の内藤晃さんによって考案され、機体「Yuri Ⅰ」に初めて採用されました(下図参照)。しかし「Yuri Ⅰ」の滞空記録は20秒で、地上3メートルにも到達しなかったため受賞には至りませんでした。

機体の大きさの変遷(下図)を見ていただくと「ATLAS」がいかに大きいかがわかると思います。 

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Atlas: the Sikorsky prize-winning design — Aerovelo

 

 

▼「ATLAS」が実際に飛行する映像


Atlas Human-Powered Helicopter - AHS Sikorsky ...

 

【本/数学】数学とは何か/M. F. Atiyah(編訳:志賀浩二)

 

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集

 

 

本の紹介

数学者マイケル・アティヤの講演や論説、インタビュー記事を、数多くの数学書の執筆もされている志賀浩二さんが編訳し、一冊の本にまとめたもの。

数学とは何か/数学と物理学との関係性/数学研究の進め方/数学と社会の関係/数学の展望、などの主題に対する一流の数学者の深い洞察が伺えます。

 

背景

物理をやる上で数学は使えればいいやという立場でしたが、必要な数学のレベルが高くなってきたため、基礎からやり直そうと思い立ちました。
代数学の基礎である集合論に手をつけようといろいろ調べていたところ、数学とはなにか?という哲学的な問題に関心が移ってしまいました。
 

本書を読む前に抱いていた疑問

  1. 数学は人間の精神が生み出したもの?私たちの世界とは独立に存在するもの?
  2. フェルマーの最終定理ポアンカレ予想といった問題が重要であるのはなぜ?どのようにして重要な問題だと結論しているの?
  3. 数学における「証明」はどのような基礎に立脚しているの?ある定理を証明するために、複数の数学分野の手法を利用したり、時には新しい分野を開拓することもあるときいたことがあるけれど、ルールは統一されているの?

 

疑問に対する回答

1. 数学は人間の精神が生み出したもの?私たちの世界とは独立に存在するもの?

このような疑問は、

”数学そのものに向けられた古くからある伝統的な問題”

第1部 数学と科学 知性・物・数学

とのことです。

”数学の定理は発見なのか、発明なのか? 数学は人間精神の創造なのか、物理的な実在の反映なのか?”

第1部 数学と科学 知性・物・数学

という問いに答えることは難しくて、数学者の中でも意見は一致しておらず、その人の考え方や信仰に依存するようです。哲学的な問題ですね。

アティヤ先生ご自身は

”数学は人間の集団の知性の中にあるものである。

たくさんの定理は存在するが、私たちはその中から欲するものだけを選択する。”

第1部 数学と科学 知性・物・数学

という立場。

私はアティヤ先生の意見の延長として、以下のような立場をとることにしました。

 

私の考え

数学は物理的な世界に存在する知的生命の集団の知性の中にあるもの。

物理的な世界に存在する知的生命はその世界によって規定される。従って、そのような知的生命の集団の知性の中にある数学自体も物理的な世界を反映したものであると考えられ、この数学が自然を記述できるということは不思議ではない。

そして、知性をもつ生命であれば、その中に存在する「数学」はどれも同じ。

ただ、数学の発展の仕方はその知的生命の性質に大きく依存する。

例えば人間の場合、整数を認識することは容易であるが、それに比べて実数や虚数の認識は苦手である。虚数が本質的な意味を持つような、量子力学によって記述されるミクロな世界に存在する知的生命であれば、整数よりも虚数を認識する方が容易いかもしれない。

 

以上が本書を読んで私が考えたこと、とろうと思った立場。本書からの影響が大きく、ほとんど同じ意見になってしまいました(笑)。

ただ私の意見では人間を知的生命に拡大しています。チンパンジーなんかにも数の概念はあるようですしね。アティヤ先生も簡単のために知的生命の代表として人間という言葉を用いただけかもしれませんけれど。

数学の実用的な側面だけでなく、このような本質的な問いについてたまには考えてみることも大切だなぁと感じました!

 

 2. フェルマーの最終定理ポアンカレ予想といった問題が重要であるのはなぜ?どのようにして重要な問題だと結論しているの?

"よい問題であるための真の判定基準は、その解を求めていく過程で、新しい強力なテクニックが見出され、それがさらに広く適用されていく場が見出されていくことにあります。"
"ひとつの問題の重要性を、その解が得られる前に評価することは、決して容易なことではありません。"
"問題の選択と形式化は、ある程度数学者ひとりひとりの直感に頼っており、それは芸術のようなものなのです。"
第2部 数学と社会 数学の進歩の確認
上に引用した文章で私の疑問は解消されてしまいました。数学に対する貢献度が高く、そして数学者を惹きつけるような問題が重要な問題ということですね。
どのような問題が数学者の興味をそそるのか?ということについては今後も考えていきたいと思います!
 
3. 数学における「証明」はどのような基礎に立脚しているの?ある定理を証明するために、複数の数学分野の手法を利用したり、時には新しい分野を開拓することもあるときいたことがあるけれど、ルールは統一されているの?
 
この疑問に対する明確な答えは、本書の中には見つかりませんでした。
集合論をはじめとする数学基礎論をまじめに勉強することでこの疑問は解決しそうなので、集合論の勉強に移ります。
 

最後に

自分が興味を持った部分について紹介してきましたが、他にも数学と人工知能との関係や経済とのかかわりなどについても言及されています。

第3部では20世紀の数学の中心的な各テーマの展望について述べられています。この部分の理解が不十分なので、数学の勉強がある程度進んだ段階で読み直したいと思っています。

 
 
目次
 

第1部 数学と科学

 知性・物・数学

 数学ー科学の女王と召使い

 科学の良心

 

第2部 数学と社会

 数学とコンピュータ革命

 数学の進歩の確認

 研究はどのように行われるか

 

第3部 数学と数学者

 20世紀における数学

 マイケル・アティヤ教授へのインタビュー

 個人的な歴史

 

2016卒、私の就活

導入

就活時期の後ろ倒しによって、今年の就活は大きく変化しています。

具体的には、

 

説明会など採用情報の解禁 12月 → 3月

採用選考(面接)の開始    4月 → 8月

 

のようにスケジュールが変更されています。

注意してもらいたいのは後ろ倒しされているにもかかわらず、実質的な就活期間が1ヶ月間増えている点です。面接開始を遅らせることで留学組の選考を同時に行おうという企業の思惑があるとか・・・(就活サイトの中の人に聞いた話ですが真偽は不明)

 

私に関する情報

ある程度私に関する情報がないと参考にしにくいと思うので、多くの企業でエントリーシート(ES)に記入が求められる情報について、特定されない範囲で公開します!

 

 学歴    国立大 修士2年

 専攻    物理工学

 TOEIC   800点台前半

 インターン 経験あり

 アルバイト 経験あり(接客業)

 研究成果  学会発表(複数回

 

インターンシップとアルバイト経験については記入欄のないESも多かったです。技術職に応募する際のESには研究成果の記入欄があるものがちらほら。

 

就活のスケジュール 

実際に私がどのようなスケジュールで今年の就活を進めてきたかを紹介します!

メーカーを中心に、ITやコンサルなどの選考も受けました。(プレエントリー:40社程度、ES提出:10社程度)

 

3月上旬

3月に入ってから動き出しました。学内で1週間にわたって合同説明会が開かれていたので、これに参加しながら企業研究。

合説には無理して参加する必要はないと思いますが、参加することで就活の雰囲気が掴め、私の場合モチベーションも高まったので暇だったら参加してみてもいいかも。

この段階で興味のある企業にはプレエントリーをしています。

 

3月中旬

引き続き企業研究とプレエントリー。

会社説明会の予約をする。

 

3月下旬

会社説明会ラッシュ。

面接が始まる企業も。

 

4月上旬

引き続き会社説明会ラッシュ。

さらに数社、面接が始まる。

 

4月中旬

会社説明会&面接。

 

4月下旬-5月

面接。

いくつかの企業から内定をもらう。

 

雑感

自己分析やwebテストの対策などの事前準備はほとんどしませんでしたが、説明会や選考には積極的に参加しました。とにかく行動することで選考における対応力が後からついてきたように感じます。

 

 ▼おすすめ関連記事

rammal.hatenadiary.jp

 

コスモプラネタリウム渋谷『重力の秘密』

     

コスモプラネタリウム渋谷で1ヶ月程前から上映されている作品『重力の秘密』を観てきました!

1時間弱のプログラムの内、前半は季節の星座などの紹介で、後半が『重力の秘密』です。

時空の歪みによって重力が発生するというアインシュタイン一般相対性理論に基づいた重力の解釈を、物理学に詳しくない人にも理解して貰おうというコンセプトの作品でした。

上のポスターの絵は地球がつくる時空の歪みを視覚的に表したものですが、ご覧のとおり映像のクオリティが非常に高く、物理は苦手という人でも直感的に理解できるのではないかと思います。

球形のスクリーンを生かしたダイナミックな映像はとても迫力がありましたよ!

 

エンドロールをみて知ったのですが、素粒子物理学者の大栗博司先生が監修をされています。物理的な背景がしっかりしているので、私のような物理を少しかじったことのある人でも楽しめると思います。

 

大栗博司先生がご自身のブログでも紹介されています。

planck.exblog.jp

 

就職活動において私が重視したこと

起業する人もいれば企業に就職する人もいて、少数とは思いますが仕事をする必要のない人もいます。私には遊んで暮らす余裕も起業する度胸もなかったので、大多数の人たちと同じ様に就職活動をすることにしました。

 

私の就職先選びの軸は

長期的にみて陳腐化しにくいスキルを身に着けられる

ことです!

 

たとえ大企業に入社したとしても安定した将来を描き辛い昨今では、転職市場における自分の価値を高めることが重要だと思います。
転職市場における人材の価値は需要と供給によって決定されるでしょう。長期的に需要が見込め、かつ習得が容易ではないスキルを身に付けられることが理想ですね。

長期的に需要の見込めるスキルを就職活動の時点で見極めることは難しいことだと思いますが、だからと言ってそれを放棄することは賢明とは思えません。理系大学院生の私の場合、以下の点を重視しました。

 

  1. 高度な数学や基礎物理の知識を必要とすること。ー コンピューターの性能向上や人工知能の発達によって(コンピューターにとって)単純な労働は少なくなっていくでしょう。最後に残るのは芸術家だけ、なんて言われていますが私には芸術の才能がないので。
  2. 仕事を通して多くの分野に触れられること。ー 柔軟な適応力はどんな時代でも重要。
  3. 仕事上で多くの人と関われること。ー 技術の発展に伴って直接顔を合わせて仕事をすることが少なくなったとしても、人間的な関わり合いがなくなるということは考えにくいため対人スキルはやはり重要。

 

こんなことを考えながら就職活動をしていました。文字に起こしてみると当たり前なことばかりですね。もう少しためになることが書ければ良かったのですが。。。

 

次回はより具体的に私の就職活動を振り返ればと思います!

 

▼就活に関係する次の記事

rammal.hatenadiary.jp

 

就活が一息ついたので以前から興味のあったブログを始めてみる

日記をつける習慣もなく、その日一日を振り返ることも少ない。そのためか記憶量が平均的な人よりも少ないと感じることがよくあります。

私がこれまでに読んだ本や記事によると、忘れることにも何かしらのメリットがあるらしい。(嫌な体験を引きずりにくい。とかね)

それにしても記憶の悪さを感じることが多いので、アウトプットをして改善しようというのがこのブログを始めたきっかけです。

 

ブログタイトルには「理系研究者の」とありますが正確には「理系研究者(企業)になる予定の」です。来年度まで続くかわかりませんが、先を見据えてこのようなタイトルにしました。

 

内容は日常、読書録、研究に関することを主に、しばらくは就活についても触れたい思っています。